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2-11 食卓での会話 1

Aвтор: 結城 芙由奈
last update Последнее обновление: 2025-05-03 18:32:44

 リビングでソファに座り、翔が蓮にミルクを与えている姿を見ながら朱莉は尋ねた。

「翔さん。夜御飯はどうされましたか?」

「ああ。朱莉さんの話を聞いた後、近場の店に食事に行こうかと思っていたんだ」

蓮から目を離さず返事をする翔。

「あの……もしよろしければ食事していきませんか? 実は私もこれから食事で、きのこの炊き込みご飯を作ったのですけど……」

すると翔は顔を上げた。

「え? いいのかい?」

てっきり断ってくるのでは無いかと思っていた朱莉はその言葉を聞いて嬉しくなった。

「はい、すぐ準備するので待っていて下さい」

朱莉は笑顔で翔に言うと、嬉しそうにキッチンに向かって食事の準備を始めた。

「……」

そんな朱莉を翔は蓮を抱きながら見つめた。

(どうしたんだ……? やけに嬉しそうに見えたけど。俺が食事をしていっても迷惑じゃないんだろうか? 今まで散々朱莉さんを嫌な目に遭わせてきてしまったのに……?)

その時、突然翔のスマホが着信を知らせてきた。相手は琢磨からだった。

「もしもし……」

蓮を胸に抱いたまま電話に出ると、突然琢磨の怒鳴るような大声が受話器から聞こえてきた。

『翔! さっきの話の続きだが……』

すると受話器越しから聞こえてくる琢磨の怒鳴り声に驚いたのか、蓮が泣き声を上げ始めた。

「ホギャアアア……ッ!」

「ああ、ごめん。蓮、驚かせてしまったよな?」

『な? 何……? 赤ん坊の泣き声? 蓮……? 蓮って……翔、お前の子供か!? お前今一体どこにいるんだよ!?』

「俺か? 今俺は朱莉さんの処に来ているんだ。蓮にお土産を持って会いに来たんだ。ついでに食事を御馳走してくれると言ってくれたから、今リビングで待っているところだが?」

『……おい、ふざけるなよっ! 翔!』

ますます琢磨の怒りの声が受話器から聞こえてきた。すると蓮はさらに怯えて泣き声が大きくなる。

「ああ、ごめんよ蓮。おい、琢磨、蓮が怖がるから大きな声を出さないでくれよ」

すると流石に琢磨もまずいと思ったのか声のトーンが落ちた。

『翔……お前俺に明日香ちゃんを押し付けておいて、お前は今更朱莉さんとの距離を縮めようとして……一体どういうつもりなんだよ?』

小は蓮をあやしながら反論した。

「おい、俺は別に明日香をお前に押し付けたつもりは全くないぞ? それどころか、明日香は全く俺に連絡すらよこさなくなったんだ。俺が
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    「あ、ああ。そうなのかもしれないけど……ほら、色々あるじゃないか。安全性に問題は無いかとか、同じ物を持っているだとか……」何故か慌てふためくように話す翔を見て朱莉は思った。(翔先輩って、こんな一面があったんだ。私の知る先輩はいつも冷静で隙が無いタイプに見えていたけど……)**** 食事が終わり、朱莉がキッチンで食後のコーヒーを淹れている時にリビングからやってきた翔が話しかけてきた。「朱莉さん……。実は聞きたいことがあるんだけど……」「はい、ではコーヒーを淹れたら伺いますね。どちらで飲まれますか?」「あ、ああ。それじゃダイニングで飲もうかな?」「はい、では少しお待ちくださいね」「お待たせしました」朱莉がトレーに2人分のコーヒーと小粒のクッキーを乗せて運んできた。「ヘエ……これは又可愛らしいサイズのクッキーだな。1円玉位の大きさかな?」「はい、そうなんです。このコーヒーを買った時にレジの横で売っていたんです。きっとコーヒーと相性が良いのだと思って買ってみたんです。もしよろしければ食べてみて下さい」「うん、ありがとう」翔は早速クッキーを一粒口に入れてみた。バニラの香りと程よい甘さで口溶けの良いクッキーだった。「どうですか?」朱莉は不安な気持ちで尋ねると、翔は笑顔で答えた。「うん。美味しいよ。朱莉さんも食べてみるといいよ」「はい、いただきます」朱莉は一粒手に取り、口に入れて嬉しそうに顔を綻ばせた。「本当……美味しいですね」朱莉の様子を見ながら翔は思った。(朱莉さんは明日香とは全く真逆のタイプなんだな……。考えてみれば明日香と一緒にいた頃はどこかギスギスした雰囲気が常に俺達の間に流れていた気がする。こんな風に穏やかな気持ちでいられたことは今まで無かった。やはり子育てをしていく環境としてはこういう雰囲気がいいんだろうな)気付けば、翔は朱莉とこのままずっと夫婦として暮らす幻想を抱いていることに気付き、慌てて打ち消した。(馬鹿な……何を考えているんだ? 蓮は明日香が産んだ子供だぞ? 俺達の問題は何一つ解決していないと言うのに、何を考えてしまったんだ?)「翔さん? どうしましたか?」「あ……い、いや。何でも無いよ」「先程私に話があると言っていましたけど……?」「あ、ああ。そうなんだ」翔は意を決したようにじっと朱莉を見つめる。

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     翔は持参して来たPCを開き、京極正人のことについて調べていた。(あの男……この六本木の億ションに住んでいると言うことは相当地位が高い人物に違いない。一体何者なんだ……?)京極正人と言う名前はネット上に溢れかえっていた。それを1つ1つしらみつぶしに探し、1件該当する人物がヒットした。(この男かもしれない!)翔はそのページをクリックした。「京極正人……リベラルテクノロジーコーポレーション代表取締役か。やはりな……」翔は次にリベラルテクノロジーコーポレーションについて検索を始めた。「IT産業部門の経営者か……。年齢は……30歳。大学2年の時に設立した会社なのか。中々やるな……。自社ビルは最近建てたばかりのようだな……。え?」そこで検索する手を止めた。「そ、そんな……嘘だろう……?」翔は絶句して手を止めた——****——17時過ぎ「ただいま戻りました」朱莉が玄関を開けると、丁度翔がリビングで蓮のミルクをあげているところだった。「ああ。お帰り、朱莉さん」笑顔の翔に朱莉は驚いた。「うわあ……やっぱり改めてそういう姿を見ると本物のパパだなあって改めて感じました」「ハハハ……そうかい? それは大分板について来たってことかな?」「ええ、そうですね。この調子なら……」朱莉はそこで言葉を切った「え? どうしたんだ? 朱莉さん」「い、いえ。何でもありません。私、手を洗ってきますね」朱莉はコートを脱ぐと、ハンガーにかけて洗面台へ手を洗いに行った。そして戻って来ると翔に声をかけた。「翔さん、蓮ちゃんのミルクが終わったら一緒に食事をしませんか?」「ああ、いいね。丁度お腹が空いて来た頃だし……お願いしようかな?」朱莉は笑顔で答えた。「はい、すぐ用意しますね」キッチンに立って食事の準備をしながら思った。(不思議だな。以前の私だったら、翔先輩と話なんて簡単に出来なかったのに。翔先輩のことが恥ずかしかったり……時には怖いこともあったりして。でも、今は……)朱莉は心の変化が何から来ているのか、まだ自分自身良く分かってはいなかった――****「うん。このカレーすごく美味しいな」2人でダイニングで向き合って食べながら、翔が感心した。「そうですね。やはり調理器具のお陰でしょうね。凄く重宝しているんです。買って良かったなって改めて思いました」

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     翌日、8時―― 京極のことが頭から離れず、翔はろくに眠れなかった。寝不足状態のままベッドから起き上がると、頭をすっきりさせる為にバスルームへむかった。熱いシャワーを頭からかぶりながら、昨夜の京極との会話を思い出していた。(あの男……ここに住んでいると言うことはかなりの地位を持つ人物だ。何故あいつは俺をまるで目の敵のような目で見ていたんだ? 朱莉さんに随分執着しているように見えたが……ストーカー行為をしていたのだろうか? それに朱莉さんも何だか様子がおかしかったな……)翔は溜息をつくとシャワーを止め、バスタオルで髪や体を拭うと着替えをした。バスタオルを他の洗濯物と一緒に洗濯機に放り込むとキッチンへ移動した。まず野菜や果物、ヨーグルトをミキサーにかけ、スムージーを作った。次に鍋にオートミール、塩に牛乳を加えて煮詰めると皿に盛りつけ、メープルシロップを添えるとテレビをつけ食卓へ座った。経済ニュースを見ながら黙々と食事を続け、ダイニングからチラリと窓の外を眺めた。(今日はいい天気だな……。布団でも干して掃除をするか)家事が苦手な明日香と違い、翔は得意だった。料理をするのも掃除をするのも別に嫌いではない。ただ、忙しさにかまけて明日香と暮している時は家政婦にたよりがちだったが、明日香が出て行ってからは家政婦も呼んでいない。蓮の子守りの時間は15時からとなっている。それまでは後数時間は余裕がある。(何もしないでいると京極を思い出してしまう。家事をして身体を動かしていると無心になれるからある意味気分転換になれそうだ)食事を終え、使い終わった食器を食洗器に入れるとすぐに翔は部屋の掃除を始めた。布団をバルコニーに干すと、部屋中の窓を開けてはたきをかける。そしてロボット掃除機を使い、その間に整理整頓をしていると、ふとソファの下に何か紙切れの様な物が挟まっていることに気が付ついた。しゃがみ込んでメモを拾い上げ、中を見て翔は目を見開いた。そのメモは明日香からのメモだったのだ。中身を読み上げ、顔色を変えた。(そんな……! もう8日も過ぎている!)翔は力なくソファに座り込むと、力なく笑った。「ハハハ……今度こそ……もう終わりかもしれないな……」**** 一方の朱莉は朝から夜ご飯の仕込みの準備をしていた。最近保温鍋調理器具をネット通販で買ったのだ。蓮の子育てをし

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    ——ピンポーン突然インターホンが鳴り、朱莉はビクリとした。「え……? こんな夜に……もしかして明日香さん?」明日香とは昨夜もメッセージのやり取りをしていたが、今夜はまだだった。ひょっとすると自分を訪ねてきたのだろうか? そう思った朱莉は急いでドアアイを確認して驚いた。「え? しょ、翔先輩!?」朱莉は急いでドアを開けると、翔は切羽詰まったように言った。「突然訪ねて、すまない」そしてドアに鍵を掛けると朱莉に向き直る。「いいか? 朱莉さん。落ち着いて聞いてくれ。さっきエレベーターで京極正人に会った」「え!?」朱莉の顔が青ざめる。「あいつは朱莉さんがこの部屋に住んでいることを知っているのかい?」「まさか……! ここへ来たことも無ければ部屋番号を教えたこともありませんよ?」朱莉が目を見開いて話す様子を見て翔は思った。(そうだ……朱莉さんがあの男と通じ合ってるはずはない。朱莉さんはそんな女性じゃないからな。だから俺は彼女を偽装婚の相手に選んだんだから……)「そ、それで……京極さんがどうしたんですか?」朱莉は身体を震わせながら尋ねた。「朱莉さん……? 随分震えているが……もしかして京極が……怖いのか?」「あ……」翔の問いに朱莉は俯いた。ギュっと握りしめられた小さな手は……微かに震えている。「朱莉さん」翔は朱莉の震える手をギュッと握りしめた。「え!?」朱莉は初めて手を握られ、驚いて顔を上げた。「朱莉さん、正直に答えてくれ。京極と何かあったのか……?」翔は真剣な瞳で朱莉を見た。翔は京極と朱莉の間に何かあったに違いないと確信していた。だが、朱莉の怯えようが不思議でならなかった。「何か脅迫でもされているのか? それともストーカー被害にでもあっているのか?」翔はますます朱莉の手を握りしめる力を強める。「脅迫……はされたことはありませんけど……」そこまで言いかけて朱莉は思った。(ひょっとすると私が今まで京極さんを恐れていた本当の理由は、神出鬼没で私の前に現れてきたからなの? でも、沖縄の話を出せば航くんのことも翔先輩に知られてしまうかもしれない。航くんとは翔先輩が考えているような中では無かったけれども仮に浮気を疑われたりしたら……ペナルティが……)だから京極のことは口に出来ないと思った。「京極さんとはたまに億ションの外で会って

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     明日香が出て行ってから、1週間が経過しようとしていた。翔は結局明日香の件で何となく朱莉に連絡を入れにくくなってしまい、時間だけが過ぎ去ってしまった。 金曜21時―― 駐車場から降りて自宅へ戻るエレベーターの中で翔は思った。(明日は土曜日。朱莉さんはお母さんの面会に行きたいかもしれないな。この件をきっかけにまた以前のように話が出来るようになれれば……。直接会って話がしたいから、まずは電話を掛けてみるか)エレベーターの中でスマホを取り出し、電話を掛けようとしところ、男性が乗り込んできた。そこでスマホを上着のポケットにしまうと、突然男が声をかけてきた。「電話、掛けないのですか?」「え?」背後から声を掛けられ、驚いて振り向くと同年代とみられる若い男が立っている。(まあ……同じ億ションの住人だから見たことはあるかもしれないな。だがそれにしてはいきなり失礼じゃないか?)「あの……?」翔がいぶかしんで男を見た。「こんばんは。随分お久しぶりですね?」「え……?」翔は首を傾げながらその男を良く見た。(待てよ……この男、どこかで見たことがあるな……?)「僕のこと、お忘れですか? 京極ですよ。京極正人です」「京極……正人……?」翔はその名を口にし、ようやく目の前の男が何者か思い出した。「やっと思い出したようですね? 朱莉さんの飼い犬を引き取った京極ですよ。折角家族になった可愛らしい愛犬をあなた方2人に振り回されて、手放さなければならなくなってしまった可愛そうな朱莉さんを僕が救ってあげたんですよ」皮肉交じりな話し方で京極は翔を睨み付けた。「な……!」(一体何だって言うんだ? この男は……。初めて会った時から敵意のある目で俺を見て、そのくせ妙に朱莉さんには馴れ馴れしい態度を取っていたな……)その時、翔が住んでいる階でエレベーターのドアが開いた。「この階で降りるので……失礼します」翔が降りようとした時、京極が声をかけてくる。「何故この階で降りるのですか?」「え?」「朱莉さんが住んでいるのはこの上の階ですよね……」いつの間にか京極はエレベーターの開閉延長ボタンを押していた。「この階には一体何の用があるんですか?」京極の話し方は穏やかだったが、翔にとってその物言いは背筋が一瞬寒くなるような底知れぬ恐ろしさを感じた。(な、何なんだ?

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   4-8 報復を誓う男 2

    ――11時 明日香は玄関に立っていた。「明日香さん、本当にホテルに泊まられるのですか?」朱莉は明日香に再度尋ねた。「ええ、先程ネットでホテルも予約したしね。これから部屋に戻って宿泊準備を終えたら、すぐに行くわ」「あの……翔さんに報告は……?」朱莉は言いにくそうに尋ねた。「いいわ、置手紙を書いていくから。朱莉さんも、もう暫く放っておいてくれていいわよ。これ以上、迷惑を掛けたくないから」「明日香さん……」「大丈夫よ、朱莉さん。貴女にはちゃんと定期的に連絡入れるから」「はい、それでは私もレンちゃんの写真付きのメッセージを送りますね」「あ、ありがとう……」明日香は頬を染めてポツリと言うと、朱莉の部屋を後にした――「ふう……」朱莉は小さくため息をつくと、PCを開いて通信教育の勉強を始めた……。****「ねえ……また例のお客様、来ているわ」「本当ね。この間も長い時間滞在していたけど、今日も開店時間からきているわよ?」億ションに併設するカフェ。また前回と同様同じ女性店員同士が京極を見て、ヒソヒソと囁き合っている。(全くよく回る口だ。あの2人は仕事と言うよりもここへ遊びにきているつもりじゃないだろうな?)京極はPC画面に目を落しつつも、耳は2人の女性店員の会話を拾っていた。(もっとも、俺も人のことは言えないか……。俺の趣味は人間観察だ。彼女達とさほど趣味の違いは無いかもしれないな……)そして先程、京極は億ションを出て行った明日香の様子を思い出していた。(あの気が強く、プライドの高い明日香のことだ。恐らく昨夜は鳴海翔の元を出て、朱莉さんの住む部屋を訪ねたのだろう)そこまで考えた時、京極のスマホに着信が入った。「もしもし……分かってる。……え……? 勝手なことをするなって……? ああ、約束する。もう迷惑をかけるような行動はとらないよ。すまなかったな……」京極は電話を切ると溜息をついた。(全く……鳴海家の人間はこちらの予測とは違う行動パターンを取ってくるから質が悪い……。だが絶対お前達の望み通りに等させるつもりはないからな。必ずあの時の報復をして、思い知らせてやる。俺の舐めた苦汁をお前たちにも味合わせてやる……!)ギリリと歯を食いしばりながら、京極は再びPCのキーを叩き始めた——**** 21時―― 翔は疲れ切った顔つきで、

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   4-7 報復を誓う男 1

     翌朝―― 自分のアドレスで明日香に不可解なメールを送りつけられた翔。今朝は不機嫌なまま8時に出社して来た。すぐに社内のネットセキュリティ対策部のエキスパート社員にPCを調べて貰った所、やはり外部からの侵入が認められ、一度だけ使用された痕跡が見つかった。そこでパスワードのリセット及び再設定を行った。そして変更が終わった後にマルチウェアに感染している可能性を視野に入れ、パソコンをネットから切り離しセキュリティ対策ソフトで完全スキャンを行い、作業は終了したのだった。  やがて9時になり、姫宮が出勤して来た。「おはようございます。翔さん」姫宮はデスクの前にいる翔に頭を下げて挨拶をした。「ああ、お早う。実は姫宮さん。君に聞きたいことがあるのだが……」椅子に座ったままの翔は神妙な面持ちで姫宮を見上げた——****同時刻——トントントントン……「う〜ん……」明日香はまな板の音と、味噌汁の匂いで目が覚めた。その際自分が何処にいるのか一瞬分からなくなってしまった。辺りを見渡し、自分がソファの上で眠っていた事に気が付いた。明日香の身体には布団が掛けてある。ボンヤリする頭を押さえながら起き上がった時、リビングに置かれたベビーベッドから小さな音が聞こえてくるのに気が付いた。「……」中を覗き込むと、蓮が起きていて小さな手足をバタバタ動かしていた。そして明日香を見た。「ダー」小さな声で言って、じっと明日香から目を逸らさない。(この子は私の産んだ子……)明日香はそっと蓮に手を近付けると、蓮はそのとても小さな手で明日香に触れた。(柔らかくて暖かい……)明日香はその事を知った時、胸に熱いものが込み上げてきて、声を殺して泣いた。「明日香さん!? どうされたんですか?」すると気配に気が付いたのか、朱莉がキッチンから顔を覗かせ、明日香が泣いていることに気付くと慌ててやって来た。「どうしたのですか? 明日香さん。何処か身体の具合でも悪いのですか?」朱莉は心配そうに明日香に尋ねてくる。「朱莉さん……」どうして彼女はこんなにも自分のことを心配してくれるのだろう? あんなに意地悪なことを沢山して酷い目に遭わせたのに……どうしてあの頃の自分はあんなに残酷な事を平気でする人間だったのだろう……。そう思うと、涙が溢れて堪らない。「朱莉さん……私……」する

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   4-6 翔の後悔 2

    翔の態度に不信感を抱いた朱莉は、話を切り出すことにした。「翔さん、その前に少しお話したいことがあるのですが。よろしいですか?」『ああ? 何だい?』「今明日香さんが家に来ているんです。疲れた様子で既にお休みですけど」朱莉は冷静に言った。『!』電話越しからも翔の息を飲む様子が伝わってくる。『明日香が朱莉さんの所へ……? 信じられないな……』「いえ、事実です」『2人は……それ程仲が良かったっけ?』翔は今更ながら妙な質問をしてきた。「そうですね。沖縄以来、以前と比べて関係は良好ですよ?」『そう……か』「翔さん。大体のお話は明日香さんから伺いました。明日香さん、酷く泣いていました」『急に長野から戻って来たから俺も驚いてどうすればいいか一瞬分からなくなってしまったんだよ』「明日香さんの話では、まるで翔さんは明日香さんに戻ってきて欲しく無かったと言ってる様に聞こえたと話していましたよ?」『……』しかし、翔からの返事は無い。「翔さん……まさか本当に明日香さんのおっしゃった通りなのですか……?」『い、いや。そういう訳ではないんだが……』歯切れが悪そうに答える翔に朱莉は言った。「今夜一晩明日香さんはお預かりしますが、きちんとお話された方が良いかと思います。レンちゃんの為にも」『あ、ああ分かったよ。それで……』翔が言いかけた時、蓮がぐずりだした。「あ、すみません。レンちゃんが目を覚ましたようなので……電話、切らせていただきますね」『分かった、それじゃ蓮をよろしく頼む』「はい、失礼します」朱莉は電話を切ると、急いで蓮の元へ向かった――****電話を切った後――「ふう〜……参ったな……。まさか明日香が朱莉さんの所へ行ってるとは思わなかった」翔は溜息をついた。「くそ! それにしても誰の仕業なんだ? あんなメールを送るなんて……。あの内容を送り付けたのは俺達の事情を知っている人間の仕業に違いない。ひょっとして姫宮さんが犯人なのか……? あまり内部の人間を疑いたくは無いが……。いや、待てよ? 今日彼女は殆ど社にいなかったぞ? ずっと今日は外に出ていたよな? 社長室の戸締りだって俺が自分でしているし……。彼女が犯人のはずは無いな。どのみち、セキュリティをもっと上げなければ……外部にデータが漏れたなら一大事だ!」翔は髪をクシャリと書き

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